シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 そっと手を伸ばした。
 けれど慧悟さんには届かない。

 手が慧悟さんの目の前で空を掴んだ時、不意に彼の目が開いた。
 目が合う。
 あ、と思っているうちに、慧悟さんの目はみふみる見開かれ――

「……希幸っ!」

 身体を起こした彼は、前のめりになり私の顔を覗いた。

 愛しい人が目の前にいる。
 その事実に、ドキドキと跳ねる胸はぎゅううっと掴まれたように苦しくなった。

「良かった……」

 その安堵した顔にも、伸ばされた右手にも。
 私の胸はそのたび苦しくなって、思わず身を固くする。
 すると慧悟さんの手は私に触れることなくゆっくりと下ろされた。

「慧悟さんは、どうしてここに……?」

「ホテルの裏通路で希幸が倒れかけるのを見かけて、僕がここまで運んだんだ」

 なんでわざわざ、慧悟さんが――?
 
 開こうとした口は、慧悟さんの微笑によって制されてしまう。
 その顔を、愛しいと思ってしまう。
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