シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「ドルチェ、ありがとう。僕のために、取っておいてくれたんでしょう?」

 食べてくれたんだ、慧悟さん――。
 けれど、胸に広がるのは安堵じゃない。
 モヤモヤだった。

「彩寧さんとの、大切な婚約の発表の場でしたから」

 つっけんどんに答える。
 放っておいて欲しいのに。
 どうして慧悟さんは、いつも私の欲しい言葉をくれるのだろう。

 子供じみた態度を取ったことを、後悔した。
 突き放そうとしたのに、彼は私に触れようとするのだ。
 伸ばされた右手。今度はまようことなく私の頬に、掠めるように触れた。

「そんなに拗ねないで。僕が好きなのは、希幸なんだから」

 言わないで。
 私の覚悟を、これ以上抉らないで。

「慧悟さんには婚約者がいるのに、まだそういうこと言うんですね。私だって子供じゃないから分かってます、慧悟さんとは身分不相応だって」

「僕は希幸のことを諦めない。彩寧だって僕達のことを分かってる。だから僕は、あの日希幸に待ってて欲しいって言ったんだ」

「でも……」

 溢れ出した涙は言葉の先を阻む。
 慧悟さんの大きな手が、私の目尻からそれを拭き取ってゆく。

 ダメ、言わなきゃ。
 また絆されてしまう、そんなの――。
< 82 / 179 >

この作品をシェア

pagetop