シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「慧悟さんにはお仕事だってあるじゃないですか。幾美財閥の会社が。慧悟さんがこうやって私に構ってる間も慧悟さんの会社は――」

「僕が休んだくらいで全社がストップするような(やわ)な経営はしていないから、安心して」

 慧悟さんは優しく笑う。
 けれど、私の言いたいことはそういうことじゃない。 

「幾美家のために倒れるまで頑張ってくれた希幸を、放っておけなかったんだよ」

「私が倒れたのは幾美家のために頑張ったからじゃないです……」

 私のせい。
 私が勝手に憧れて、落ち込んで、抱えたせい。 

「じゃあ、僕のせい? 僕が希幸を悩ませてる?」

「違――」

「僕の好意は邪魔なの? 希幸が受け入れてくれたあの日、何物にも変え難いものを得たって思ったのは僕だけだったの?」

 違う。
 慧悟さんのせいじゃない。
 甘い期待を抱いてしまった私が悪い。

 なのに言えずに、ただ涙ばかりが溢れてくる。

「ごめん、希幸を責めたかったわけじゃないんだ……」

 私に触れていた慧悟さんの手が下ろされる。
 同時に、病室の扉が開いた。
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