シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 はっとして、思わず顔を上げてしまった。

「やっとこっちを向いてくれた」

 優しい笑顔と目があった。
 昼の日が、彼の背後から私を照らす。
 それがあまりにもまぶしくて、私はまた視線を下に向けてしまった。

「抜け出したんですか、あのとき……」

 *

 小学生の頃に、家族皆で花火を見にこの海岸に来たことがある。
 ベリが丘夏の風物詩でもある、花火大会。招待客は会場周りに設営された観客席に立ち入ることができるけれど、私は一般席の人ごみの中で、母に手を繋がれていた。
 そんな中、私は浜辺に一人で立ち尽くし、花火を見上げる慧悟さんを見つけた。

「慧悟さん……」

 母の手を離し、慧悟さんの元へ向かう。

「希幸……」

 慧悟さんは驚いた顔をして、それから優しい笑みを向けて私の方を向いてくれた。

「また、迷子になったの?」

「違うよ。迷子は慧悟さんの方でしょう?」

 一人きりの慧悟さんを見て、そう思ったのだと思う。
 慧悟さんは困ったように眉尻を下げ、「そうだね」と呟いた。

 二人でしばらく、並んで花火を見上げていた。
 この人混みの中から慧悟さんを見つけ出した私は、慧悟さんとは運命の糸で繋がってるんだと感じていた。
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