シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「希幸」

 慧悟さんが、不意に沈黙を割く。
 見上げると、慧悟さんは遠くの方を見ていた。
 水平線の向こうよりも、もっともっと遠くを。

「僕との子なの?」

 核心を突く質問に、どきりと肩を震わせる。
 けれど、言ってはいけない。
 婚約者との結納も済ませた慧悟さんとの子を身ごもっているだなんて、言えるわけがない。

「否定しないってことは、肯定だね」

 黙り込んだ私に追い打ちをかけるように、慧悟さんが言う。

 そうか、否定すれば良かったんだ。
 思っても、もう後の祭りだ。
 今さら取り繕っても仕方がないので、こくりと頷いた。

「そうか、あの時……」

 口ごもる慧悟さんに、私は慌てて口を開いた。

「ごめんなさい! 私のせいだから……」

 私が抱かれることを望んでしまったから。
 私が一つになることを望んでしまったから。

 幾美家に恩を仇で返すようなことをしてしまったから。
 だから――

「慧悟さんはもう、私に関わらないでください。この子は、こっそりなかったことにするから――」

 勇気を振り絞り、出した声は震えていた。

 泣くつもりなんてないのに。
 それでも涙が溢れるのは、心の中のわがままな私が出しゃばるからだ。

 慧悟さんに愛されて、慧悟さんとの子供を産んで、幸せに暮らしたい。

 けれど、そんなものは叶わない夢だと分かっている。
 好きだから、身を引くべき。
 なのに――。

「好きだって、言ったでしょ」
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