シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~

16 そばにいて

 突然、身体をすっぽりと包まれた。
 温かな、広い、大好きな腕の中に。

「離してよ、慧悟さん……」

 言葉ではそう言っても、次から次へと涙が溢れてくる。
 心が、身体が、慧悟さんにしがみついてしまう。

「離さない。希幸のお腹の子も、なかったことになんてしたくない。あの夜、僕はとても幸せだったんだから」

「でも……」

 言いかけた反論は、いとも簡単に彼の強い抱擁により消されてしまう。
 幸せなのに、悲しくて苦しい。
 離してほしいのに、離してほしくない。

「気が気じゃなかった。希幸を探してホテルの裏を歩いていたら、希幸が目の前で倒れて、やっぱりあのまま別れるべきでなかったとか、このまま希幸が目覚めなかったらとか、本当に色々考えたんだ。パーティーの最初から希幸の元に行くべきだったとか、それよりも前にもっと希幸に会いに行くべきだったとか、色々と後悔した。希幸が何よりも大切なのに、色々ちゃんと片付けてからって、後回しにしてしまったことを責めたよ」

「慧悟さん……」

「本当に大切なのは、希幸だけなんだ。だから僕は、何が何でも希幸を一番大事にしたい」

 慧悟さんの抱擁は強く、私の背中をがっちりと包む。
 けれど、優しい。
 その優しさに、抱いてはいけないはずの気持ちがむくむくと湧き上がってしまう。

「僕は、ただ希幸のそばにいたいんだ。それが僕の、後悔しない生き方だから」

 紡がれる言葉に、胸がいっぱいになる。
 余計に苦しくて、潰れそうな胸から溢れ出した想いが全部涙になって流れてくる。

「だから、『ごめん』なんて言わないで。僕のそばにいて」
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