シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 何も言えなくなり、ただ涙を流すだけの私の頭に、慧悟さんの大きな手が乗る。
 そのまま頭ごと、私は彼の胸元に引き込まれた。
 力強い抱擁が、愛しくも苦しい。 

「あの日の僕は先走ってしまった。だから、必死になって希幸と一緒になれるように奔走してた。会えなくて、どうしようもなく愛しくて、でも希幸のためだって思って……。彩寧とは結納はしたけれど、彼女だって僕が希幸のことを好きなのも知ってる。婚約は破棄していいっていつでも言ってる。だから――」

「いいよ、もう」

 堪らなくなった。
 これ以上は、私が潰されてしまいそうだった。

「どっちにしろ、奥様は私たちことを許さないでしょ?」

 離れたくて、身をよじった。
 少しだけ、慧悟さんの腕の力が緩む。
 その隙に、慧悟さんの胸に手をついて、距離を取った。

 見上げた慧悟さんは、目をぱちくりさせながら、私を見下ろしている。
 慧悟さんの瞳に、目を真っ赤にした私が映った。

「昔ね、子供の頃。バレンタインに、慧悟さんにこっそりチョコ届けようとして、守衛さんに捕まったことがあるの」
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