シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 ホテルに戻ると、慧悟さんはさっとルームサービスを手配してくれる。
 運ばれてきたディナーは1人分、私の分だけだ。
 慧悟さんは私に笑みを向けながら、ノートパソコンを開いている。

「お仕事ですか?」

「ああ。ごめんね、希幸が目の前にいるのに」

 慧悟さんはそう言うと、ぱたんとパソコンを閉じてしまった。

「あ、いいんです! お仕事、続けて――」

 言いかけた時、突然スマホが鳴りだした。
 慧悟さんはポケットから取り出したそれを一瞥する。 
 しかし、「ごめんね」と私に断りを入れ、またポケットにスマホを戻してしまった。

「あの、私のことは気にしないでください! お仕事の方が、大切だと思うから……」

「ううん、僕には希幸の方が大切だよ?」

 目の前で、間髪入れずにすぐに否定する慧悟さんに、愛しさが募る。
 それだけで胸が満たされて、きゅうっと苦しくなって、目頭を熱くする。

「……可愛い」

 まだ食べかけのディナー。
 慧悟さんは徐ろに私のフォークを取り、赤身の残る牛肉でヴァン・ルージュをすくう。
 それを口元に差し出されれば、あーんと口を開けざるを得ない。

 ぱくっと口に入ると、慧悟さんは満足そうに微笑む。

「ほら、可愛い」

「か、可愛くは――」

「可愛いよ。食べちゃいたいくらい」

「た、食べ――っ!」

 口を噤んだ私の頬はきっと真っ赤だ。
 慧悟さんは、そんな私を見てケラケラと笑った。
< 97 / 179 >

この作品をシェア

pagetop