強面騎士団長に離婚を申し出たら、私を離したくないってソレ本当ですか!? ~転生聖女は推しをヒロインルートに戻したい~
 今なら分かる。ジェイコブのチュニックの汚れは漆喰の塗り替え作業で付いたもの。そして彼は、衣服の洗濯にすら事欠く状況にあるのだ。

「そうですか、私の為にしてくださったのですね」

 私は内心の憤りを隠して微笑んだ。
 どうやら汚染されているのは、水源だけではないらしい。この町で〝浄化〟が必要なのものは別にある──。

「もちろんです。すべては聖女様に喜んでいただきたいがため」
「なるほど。あなたのお考えはよく分かりました」

 私は鷹揚に頷き、微笑んで続ける。

「ではニーグさん、私がもっと喜ぶようにひとつ頼まれてくれませんか」
「は、はい。なんでしょう」
「先に館に戻り、『晩餐用の料理はすべてパンに挟み、手で持って食べられるようにして、バスケットに詰めておくように』と町長に伝えてくださいませ」
「は?」

 ニーグは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

「あら、いやだわ。肩肘張った晩餐はもう古いわ。手軽なワンハンドスタイルが王都では流行の最先端なのよ」
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