強面騎士団長に離婚を申し出たら、私を離したくないってソレ本当ですか!? ~転生聖女は推しをヒロインルートに戻したい~
 彼女は一瞬ビクンと肩を跳ねさせたが、特に嫌がる素振りはない。その反応を少し意外に思いつつ、内心の喜びは隠せなかった。背中を押されるように反対側も同じように啄んだ。
 彼女はされるがままにしていたけれど、俺の唇が離れるや自分から俺の胸の中に飛び込んできた。

 この瞬間。ここまで必死に取り繕ってきた平静の仮面が、無残にも剥がれ落ちた。
 彼女の背中に回した手も無様に震えだした。湧き上がる感情は、もう隠すことが出来そうになかった。

「君が無事で本当によかった。君が男に押さえつけられていたあの光景は、俺にとって恐怖だった。そして俺は大切な君が傷つけられる恐怖に、今も震えが止まらないんだ」

 腕の中でフェリシアが息をのむ。

「フェリシア、君は俺の大切な宝物だ。俺は君がなによりも愛おしい。君を離したくない……いや、君を手放すことなどできるはずがない。たとえ、どんなに君がそれを望んでも……俺はひどい男だな」
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