強面騎士団長に離婚を申し出たら、私を離したくないってソレ本当ですか!? ~転生聖女は推しをヒロインルートに戻したい~
 彼は怪訝そうに眉根を寄せ、しかし途中ではたと思い至ったように私の右腕に視線を向けた。
 たしかに、私の右上腕には傷跡がある。王太子殿下がそれを厭って婚約を破棄するくらいには、醜い痕となって残っている。けれど、私の憂慮はそれではなくて。

「心配するな。君が心と体に負った傷を痛ましく思いこそすれ、傷跡それ自体について思うところはなにもない。この傷跡も含めて、俺は君が愛おしい」

 私の憂いとは別の角度からの言葉ではあったが、彼の優しさは心に染みた。

「腕の傷のこと、そんなふうに言っていただけて嬉しいです」
「それはよかった」

 彼は露わになっている腕の傷跡に、恭しく口付けた。

「でも、やはり明かりは消していただいた方が……。その方が、あなたを困らせないで済むと思うので」

 私は聖女として地方を回る機会も多かった。地方の宿場では、王城内では絶対に聞こえてこない男性たちの明け透けな話を耳にしてしまうこともあった。
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