蒼い情熱が導く、あなたの極上な愛に酔いしれたら
Ⅱ.現実と想起



久しぶりの出勤は足取りが重い。
老舗デパート本館7階にある宝飾品売り場が私の勤め先。

「ブライダルリングも勿論、国内外のブランドを充実したラインナップで取り揃えております。エンゲージとマリッジリングのセットリングでしたら、こちらのデザインが華やかでラインも美しく、ダイヤモンドの輝きを引き立たせてー…」

飛び込みでご来店されたカップルのお客様に、記念すべき日に相応しいリングとなる様に提案する。
何十万、何百万もする有名ブランドの宝石や時計に囲まれて、大切な人や、自分へ、特別な贈り物をするお手伝い。
とても華やかな仕事。
だから、アテンドする私達も”そう”でなければいけない。
のだけれどもー…

就職してから八年。
月日が流れるのは早くて、三十代突入。
高嶺葵(タカネアオイ)はこの煌びやかな場所とは真逆の存在。
ショーケースに反射した、黒髪ひっつめ髪メガネの冴えない自分を見ると、つい溜息が漏れる。

結局、私はまた現実に帰れば元通り。



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