年上幼馴染の一途な執着愛
「日向」

「お前が泣いてんの、もう見てらんねぇ。……どっかの知らない男のために泣いてるところ、もう見たくねぇんだ」

「……」

「無理して笑うな。俺の知らないところで一人で泣くな。俺の見えないところで一人で悩むな」


その声は、まるで日向の方が泣いているようだった。

悲痛で、苦しくて、切なくて仕方ない。


「俺にしろよ。俺にしとけよ。そうしたら、絶対お前を泣かせねぇし絶対幸せにするから」

「日向……?」

「だから、早く俺を選べよ……」


布巾なんてとっくに私の顔から落ちていて。
少し体を離せば、揺れる瞳と目が合う。
吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳の奥に、ギラギラとした熱が私を狙っているのが見えた。

獰猛な獣のようなその視線に、ごくりと息を呑む。
ゆっくりと押し倒された身体。

そのまま重なった唇。日向も緊張しているのか、ザラザラとしていて身体が震えているのがわかる。


「ひ、日向……?」

「ごめん、夕姫。俺今、全然理性無い」

「え……」

「十秒だけ待つ。嫌だったら、俺を蹴り飛ばして逃げろ」


私に馬乗りになる日向の顔が、今にも私を食べようとしている獣に見えた。
色気が溢れていて、目を逸らせない。
今にもはち切れてしまいそうなくらい、心臓がバクバクと高鳴る。

ゆっくりと目を閉じて静かに数え始めた日向。
私が少しでも動けば、きっと日向は顔を背けながらすぐに避けてくれるだろう。
"俺が襲う前に帰れ"って、私を帰してくれるだろう。
言葉は乱暴だけど、私に触れる手はどこまでも優しい。
日向は絶対に私を傷つけるようなことはしない。
今も私を傷つけないようにって必死になってるのがわかる。

わかるからこそ、今の私に"逃げる"という選択肢は、無い。

ここから、日向から、逃げたくない。そう思った。
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