【完結】養ってやるかぁ!!公園で出逢った無職男子が……まさかまさかの、そのまさか!?
「……雪子さん……はい……」

 あれから毎日セックスしている。
 彼が初めて知った快楽に、もっと溺れてほしい。

 雪子には何も無い。
 彼と同じ……それ以上にカラっぽなのかもしれない。
 地元には帰れない。

 無職の女で、彼を養うこともできない……。
 せめてクビになった職場くらいの並みの給料があれば……彼を養っていける気がした。
 慎ましやかな生活でよければ……二人で……。

 でも
 『好き』
 『ずっと一緒にいて』
 なんて言葉はお互いに言ってない。
 ずるい女になりそうだから。
 
 気持ちのよい舌をからめるキスをしていると、スマホが鳴った。
 無視しようかと思ったが、クビになった会社の先輩だ。
 なんとなく気になってメールを開いた。

「え……? 仕事の紹介してくれるんだって!」

「本当ですか?」

 雪子の笑顔につられて、始も笑顔になる。

「うん! うちの会社、草神グループの子会社なんだけど……先輩が他の子会社に声かけてくれたみたい!」

「草神グループの?」

「そ! すごいでしょ! 苦労して入ったのにセクハラでクビなんて……見て見ぬ振りしたのが気になって、そのお詫びだってさ~明日ちょっと遠いけど面接! N市のグラフィルスビルだって!」

 始の顔が曇る。

「国道沿いのビルですか?」

「え? あ、そうみたい~知ってるの?」

 地図アプリを見ながら、雪子は明日のバイトの時間も確認する。
 そしてすぐにスーツを準備して、クリーニングに出したワイシャツも出した。

「……あそこ一帯は、今は中に事務所なんかないはずですよ」

「えぇ? まさか~じゃあ新しく事務所が入るんじゃないの? そこの社員募集してるのかな?」

「いえ、あそこは……いえ、でもそこで面接なんておかしいです……あそこはもう使われることはないんです」

 始の言うことに、雪子は首を傾げる。

「でも……せっかくいい話なのに、先輩に疑うようなメールできないよ。お願いしちゃったし……」

「そうですよね」

 なんだか始の様子が変だ。

「まぁ明日は昼から単発バイトして、夕方から面接行ってくるから」

「雪子さんはすごく努力家ですよね……本当にすごい」

「始くんの方がすごいよ! この前まで何もできなかったのに……あ、ごめん」

「ふふ、本当にその通りでしたよ。知識はあっても何もできなかった。それなのに俺は……」

 始が少し考え込んだ顔をする。
 あぁそんな顔しないで、と雪子は口づけた。

 なんだか、このおかしな生活を維持している魔法が、解けてしまうような気がした。

「お味噌汁美味しかった。ハンカチにまでアイロンかけてくれてありがとう。貴方はとっても優しくて素敵な人だよ……今日は久しぶりに夜更かししようよ」

 明日は昼からだから……と、出逢ったあの日のように……。
 雪子がキスをすると、始も答えてくれる。

 たったの七日前なのに、出逢ったのがすごく昔のようにも思えた。

 明日、仕事が決まって正社員になれれば彼を養っていけるかもしれない……。
 焦りも迷いも忘れられるセックスに二人で溺れた。
 攻められて、イカされて、喘いで、彼にしがみついて、またイって……眠る。

 でも次の日。
 アラームが鳴って昼前に雪子が起きると、部屋には誰もいなかった。

「……始くん……」

 魔法が解けたようだった。
 机の上に十万円。

「こんなの、なかったら幻だって思えるのにさあ~……」

 お金だなんて、虚しくなった。
 でも、それ以上に炊飯器がセットされておかずがテーブルに置かれて、味噌汁が出来あがって冷たくなっていたのが虚しくなった。

「……ばか……」

  
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