呪われし森の魔女は夕闇の騎士を救う
エーリエは、心の中で「黙れ、黙れ」と自分に言い聞かせる。本当は、言葉の途中だ。続きを言わなければいけない。だが、口を開けば泣き言が出そうになる。彼女は生まれて初めて、自分を律することがこれっぽっちも出来ず、感情に大きく振り回された。
こんな風になることなぞなかったのに。普段、何に驚いても、何におどおどとしても、冷静に考えたことは必ず守れたのに。なのに、つい、口から音が漏れる。
「駄目だわ……駄目。そんなの嫌……」
「エーリエ……?」
「ごめんなさい、ノエル様、わたし……わたしは……」
エーリエはテーブルに突っ伏した。彼女の髪が、食べ終わった皿に入りそうになり、ノエルは慌ててそっと髪をすくう。エーリエはそれに気づかないように唸った。
「うう……ごめんなさい……ごめんなさい……うまくいかない……うまく出来ずにごめんなさい……」
「何を謝っているんだ」
「わたし、ノエル様のことが好きなんです……身の程知らずと思われても仕方がありませんが、ノエル様のことが……ごめんなさい……」
ノエルは軽く唇を開けた。しばらく驚いて彼女を見ていたが、ハッとなる。それから、彼は慌ててエーリエの横に移動をし、膝をついて彼女に寄り添った。
「エーリエ」
「好きです……」
わずかに掠れた小さな声。エーリエはテーブルに突っ伏し、自分の顔を守るように両腕で囲う。ピンクの外套を羽織った肩がかすかに揺れる。ノエルはその彼女の肩に手を置いて「エーリエ」と優しく名を呼んだ。だが、彼女はそれに反応せずに、静かに泣く。
ああ、夢のような一日だった。初めてお化粧をして。綺麗な外套を着せてもらって。立派な馬車に乗って。その上、ノエルは優勝をして、自分が花冠を上げて。そして。
(こんなわたしのことを好きだとおっしゃっていただけるなんて)
それだけで十分だった。舞い上がった。けれど、それと同時に自分と彼の身分差があまりにも大きすぎて愕然とした。それまで曖昧にしかわかっていなかったものを、見せつけられた気がして、エーリエにはショックが大きすぎた。
なのに。
それでも、自分は彼が好きなのだ。沢山言い訳を口にしながら、自分の心を飲み込もうとした。なかったことにしようとした。なのに、これだ。エーリエは自分を情なく思い、ノエルに呆れられるのではないかと恐れ、顔をあげることすら出来なかった。
だが、そんな彼女にノエルは優しく声をかけてくれる。
「エーリエ」
二度目の声掛け。それでも、エーリエは顔をあげることが出来ない。
「雲が、晴れた。美しい月が見える」
こんな風になることなぞなかったのに。普段、何に驚いても、何におどおどとしても、冷静に考えたことは必ず守れたのに。なのに、つい、口から音が漏れる。
「駄目だわ……駄目。そんなの嫌……」
「エーリエ……?」
「ごめんなさい、ノエル様、わたし……わたしは……」
エーリエはテーブルに突っ伏した。彼女の髪が、食べ終わった皿に入りそうになり、ノエルは慌ててそっと髪をすくう。エーリエはそれに気づかないように唸った。
「うう……ごめんなさい……ごめんなさい……うまくいかない……うまく出来ずにごめんなさい……」
「何を謝っているんだ」
「わたし、ノエル様のことが好きなんです……身の程知らずと思われても仕方がありませんが、ノエル様のことが……ごめんなさい……」
ノエルは軽く唇を開けた。しばらく驚いて彼女を見ていたが、ハッとなる。それから、彼は慌ててエーリエの横に移動をし、膝をついて彼女に寄り添った。
「エーリエ」
「好きです……」
わずかに掠れた小さな声。エーリエはテーブルに突っ伏し、自分の顔を守るように両腕で囲う。ピンクの外套を羽織った肩がかすかに揺れる。ノエルはその彼女の肩に手を置いて「エーリエ」と優しく名を呼んだ。だが、彼女はそれに反応せずに、静かに泣く。
ああ、夢のような一日だった。初めてお化粧をして。綺麗な外套を着せてもらって。立派な馬車に乗って。その上、ノエルは優勝をして、自分が花冠を上げて。そして。
(こんなわたしのことを好きだとおっしゃっていただけるなんて)
それだけで十分だった。舞い上がった。けれど、それと同時に自分と彼の身分差があまりにも大きすぎて愕然とした。それまで曖昧にしかわかっていなかったものを、見せつけられた気がして、エーリエにはショックが大きすぎた。
なのに。
それでも、自分は彼が好きなのだ。沢山言い訳を口にしながら、自分の心を飲み込もうとした。なかったことにしようとした。なのに、これだ。エーリエは自分を情なく思い、ノエルに呆れられるのではないかと恐れ、顔をあげることすら出来なかった。
だが、そんな彼女にノエルは優しく声をかけてくれる。
「エーリエ」
二度目の声掛け。それでも、エーリエは顔をあげることが出来ない。
「雲が、晴れた。美しい月が見える」