君がくれた世界はとても美しかった。
瞳の闇
この絵、きれい…2年前の夏。
旧校舎3階1番奥の階段の横のもの空き部屋。
そこにひっそりと息を潜めていた一枚の水彩画。
題名、君がくれた世界。
ほかの絵は古ぼけているのにこの作品だけ新しい。作者は書かれていない。こんな素敵な絵、誰が描いたんだろう。
1人の女の子がシロツメクサの冠をこちらへ伸ばしている。この女の子は作者にとって大切な子だったりするのかな…?
私は学校が好きではない。兄さんたちといつも比べられるから。だから昼休みなどはほとんどこの場所に来る。静かで誰もいないここは私にとって唯一の居場所だった。
安樂家は代々安樂病院を引き継いできた。長男の誠兄さんは昔からトップの成績で医者になり、次男の尊兄さんも私より2つ年上だけど成績トップで医学部合格はほぼ確定のようだ。おまけに、2人とも顔がよく運動神経もいいので家の中には兄さんたちの賞状やメダルで溢れている。もちろん女子たちも放っておかない。
たいして、私はどうだろう。成績は中の中。顔も普通。運動神経は悪い。友達は兄さんたちのせいで出来たことはない。至って平凡。良くも悪くもない。それが私。
学校では常に「あれが妹?」「お兄ちゃんはすごいのに。」「全然似てない。」など言い続けられて来た。
家でも「お兄ちゃんたちはできたのに。」「もっと見習いなさい。」
いつもいつも比べられている。もう慣れてしまったからどうってことないけど…
でも、私には好きなことが一つだけある。
それは、絵を描くことだ。
絵を描いている時だけは自由になれる。真っ白な世界に、自分の色を重ねる。
絵は誰とも比べられないし、自分の存在を証明できる。今日も1人旧校舎3階空き教室、窓の外に広がる桜の花を描いていた。この作品は1週間後のコンクールに応募する予定だ。今までは、どうせ私なんかとコンクールには応募したことがなかったが、美術の先生、桜田先生に勧められ、とりあえず応募してみる事にした。
今までで1番良い作品になりそうだ。自分を良く書き表せたと思う。
それから、コンクールの結果が届いたのは1ヶ月後のことだった。桜田先生が美術室に駆け込んできて荒く息をしながら「安樂さん!安樂さんの絵、金賞を取ったよ!本当にすごいことよ。おめでとう。」
金賞…?私の絵が?うそ…
初めての賞に嬉しさが溢れて涙が止まらない。これで、これで、やっと兄さんたちみたいに褒めてもらえる。
早く、早くお母さんとお父さんに知らせたい。
私は走って家へ駆ける。
あとはこの角を曲がれば、えっ…
私はいつの間にか車の前に飛び出していた。
ひどい音と共に迫り来る。あ…その瞬間私は死を覚悟した。プッって視界が暗くなった。
あー、私は初めての賞を伝えることすら、褒められることすらできずに死ぬのか。つまらない人生だったな。もっといろんな絵を描きたかった。もっといろんなものを見て、感じて、友達作って、恋だってしたかった。
よくここまで頑張ったよ衣冬。自分で自分を慰める。なぜだかわからないが最後の記憶は「君がくれた世界」の絵だった。
…と。…いと。お願い起きて。
はっ…ここは、どこ?暗い何も見えない。もしかして、私地獄に落とされたの?
そんなに悪い子だったの?私って。
「いと!わかるか?」
「尊兄さん…?」
「いと、俺は誠だよ。」
「誠兄さん?なんでいるの?誠兄さんも死んだの?」
「いと、落ち着いて。いとは生きてるよ!」
生きてる…?
「え、でも何も見えないの。真っ暗でひとりぼっちなの。これ夢だよね?」
「いとっ。」
誠兄さんは私を思いっきり抱きしめた。
泣いてる?あの意地悪な誠兄さんが?
「もぅ、いと死んだかと思った。よかった、生きてて…」
「誠兄さん、私、見えない。」
「衣冬、落ち着いてきけ。衣冬は事故の後遺症で視力を…」
「え…それって、もう一生見えないってこと?」
「……そうだ。」
「そんな…これから私はどうやって生きていけば良いの?もう絵が描けない。」
「いとっ!」
「お父さん?お母さん?」
「心配させるなっ」
心配?私に今まで無関心だったお父さんとお母さんが私を初めて心配してくれているんだ。どうしよう。うれしいっ。
パンッ…
え…左の頬がヒリヒリと痛む。
「あんたはなんでいつもいつも言うことを聞かないの!こんなに出来損ないに育てた覚えはありません。」
「お母さんっ!」
誠兄さんが庇ってくれているのだろう。
やっぱり、私は安樂家にとっていらない子だった。邪魔な子だった。死ぬべきだった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいっ。」
私は謝るしかなかった。
旧校舎3階1番奥の階段の横のもの空き部屋。
そこにひっそりと息を潜めていた一枚の水彩画。
題名、君がくれた世界。
ほかの絵は古ぼけているのにこの作品だけ新しい。作者は書かれていない。こんな素敵な絵、誰が描いたんだろう。
1人の女の子がシロツメクサの冠をこちらへ伸ばしている。この女の子は作者にとって大切な子だったりするのかな…?
私は学校が好きではない。兄さんたちといつも比べられるから。だから昼休みなどはほとんどこの場所に来る。静かで誰もいないここは私にとって唯一の居場所だった。
安樂家は代々安樂病院を引き継いできた。長男の誠兄さんは昔からトップの成績で医者になり、次男の尊兄さんも私より2つ年上だけど成績トップで医学部合格はほぼ確定のようだ。おまけに、2人とも顔がよく運動神経もいいので家の中には兄さんたちの賞状やメダルで溢れている。もちろん女子たちも放っておかない。
たいして、私はどうだろう。成績は中の中。顔も普通。運動神経は悪い。友達は兄さんたちのせいで出来たことはない。至って平凡。良くも悪くもない。それが私。
学校では常に「あれが妹?」「お兄ちゃんはすごいのに。」「全然似てない。」など言い続けられて来た。
家でも「お兄ちゃんたちはできたのに。」「もっと見習いなさい。」
いつもいつも比べられている。もう慣れてしまったからどうってことないけど…
でも、私には好きなことが一つだけある。
それは、絵を描くことだ。
絵を描いている時だけは自由になれる。真っ白な世界に、自分の色を重ねる。
絵は誰とも比べられないし、自分の存在を証明できる。今日も1人旧校舎3階空き教室、窓の外に広がる桜の花を描いていた。この作品は1週間後のコンクールに応募する予定だ。今までは、どうせ私なんかとコンクールには応募したことがなかったが、美術の先生、桜田先生に勧められ、とりあえず応募してみる事にした。
今までで1番良い作品になりそうだ。自分を良く書き表せたと思う。
それから、コンクールの結果が届いたのは1ヶ月後のことだった。桜田先生が美術室に駆け込んできて荒く息をしながら「安樂さん!安樂さんの絵、金賞を取ったよ!本当にすごいことよ。おめでとう。」
金賞…?私の絵が?うそ…
初めての賞に嬉しさが溢れて涙が止まらない。これで、これで、やっと兄さんたちみたいに褒めてもらえる。
早く、早くお母さんとお父さんに知らせたい。
私は走って家へ駆ける。
あとはこの角を曲がれば、えっ…
私はいつの間にか車の前に飛び出していた。
ひどい音と共に迫り来る。あ…その瞬間私は死を覚悟した。プッって視界が暗くなった。
あー、私は初めての賞を伝えることすら、褒められることすらできずに死ぬのか。つまらない人生だったな。もっといろんな絵を描きたかった。もっといろんなものを見て、感じて、友達作って、恋だってしたかった。
よくここまで頑張ったよ衣冬。自分で自分を慰める。なぜだかわからないが最後の記憶は「君がくれた世界」の絵だった。
…と。…いと。お願い起きて。
はっ…ここは、どこ?暗い何も見えない。もしかして、私地獄に落とされたの?
そんなに悪い子だったの?私って。
「いと!わかるか?」
「尊兄さん…?」
「いと、俺は誠だよ。」
「誠兄さん?なんでいるの?誠兄さんも死んだの?」
「いと、落ち着いて。いとは生きてるよ!」
生きてる…?
「え、でも何も見えないの。真っ暗でひとりぼっちなの。これ夢だよね?」
「いとっ。」
誠兄さんは私を思いっきり抱きしめた。
泣いてる?あの意地悪な誠兄さんが?
「もぅ、いと死んだかと思った。よかった、生きてて…」
「誠兄さん、私、見えない。」
「衣冬、落ち着いてきけ。衣冬は事故の後遺症で視力を…」
「え…それって、もう一生見えないってこと?」
「……そうだ。」
「そんな…これから私はどうやって生きていけば良いの?もう絵が描けない。」
「いとっ!」
「お父さん?お母さん?」
「心配させるなっ」
心配?私に今まで無関心だったお父さんとお母さんが私を初めて心配してくれているんだ。どうしよう。うれしいっ。
パンッ…
え…左の頬がヒリヒリと痛む。
「あんたはなんでいつもいつも言うことを聞かないの!こんなに出来損ないに育てた覚えはありません。」
「お母さんっ!」
誠兄さんが庇ってくれているのだろう。
やっぱり、私は安樂家にとっていらない子だった。邪魔な子だった。死ぬべきだった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいっ。」
私は謝るしかなかった。