君が忘れてから僕は征きたい
4月に入り、既に下旬に差し掛かっていた。
立花の机上には多くの報告書で散らかっていた。最近の本国は敵国の最新の兵器や威力に圧されていた。立花は椅子に腰掛け、肘をつき、重たそうな頭を支えながら、報告書に目を通していた。
…1944年4月21日時点ノ本国ノ状況ヲ示ス…

日中戦争、第二次世界大戦、太平洋戦争と、戦争が始まり7年。立花は数々の報告書で兵士の死傷者数や戦地状況を見てきたが、慣れるものでは無かった。酷い時には朝から夜まで一日中、報告を聞き、報告書に目を通し、酷く頭痛がする日もある。

コンコンコン…
立花の書斎の扉を誰かが叩いたした。
「どうぞ」
「失礼致します。第12部隊少佐木原信彦です。報告とその報告書を持って参りました。」
「ありがとうございます。」
第12部隊少佐木原信彦は立花の部下だ。立花と木原は出会って、5年になる。木原は背が高く、眉毛がつり上がっていて、迫力があり、強面な印象だ。しかし、声がとても柔く、場を和ませる好青年である。訓練にも積極的に行い、隊内でも成績は1位、2位を争う、努力家だ。

木原は立花の机上に報告書を置いた。立花は目を通しながら、報告を聞いた。
「昨日の4月18日に戦地にて…」

«何度聞いただろうか。同じ国の者が死んだと。あと何回聞いたら、あと何回戦えば、聞かなくて済むだろうか…。そんな事を考えてしまう僕は非国民だろうか。お国のために戦う事は幸福な事だと思えるのも本当だが、心の奥底にいる霧が掛かったこの思いも本物である。矛盾しているな。»

「報告は以上になります。」
「あぁ、ありがとうございます。」

立花の浮かない表情に気づいたのか、木原は口を開いた。

「立花中尉、お顔のご様子が悪く見えます。少し気分転換に外の空気を吸いに行かれては」

木原は周りを見る力に富んでいるため、表情の変化には敏感だった。立花は部下に気づかれ、助言させてしまった事にはっと我に帰った。

「すまない、最近はあまり良い報告でないものばかり来るから。木原少佐の言う通り、少し散歩でもして来るよ。」

「はい、気分転換も大事な事です。必ず私たちでお国のために勝ちましょう。」
「あぁ、そうだな。」

失礼しますと言って、木原は出ていった。
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