一匹狼の君は、どうしたら笑うんだろう?

第一話

「んもう、なんでこんなときに限って……っ!」

 私は傘を差しながら、全速力で帰り道を急いでいた。
 どしゃぶりの雨は安っぽい傘では防ぎきれず、私はずぶ濡れだった。
 辛うじて髪だけはセーフみたいだけど、そんなのは些事。身体中がぶるぶる震えそうなほど冷え切っていた。春とはいえまだ肌寒い日は時折ある。今日がまさにそれで、しかも雨というのだから最悪の二文字。指先がツンとやや痛いほどだ。

 お母さんから頼まれたスーパーへの買い物。
 天気予報を見なかった私が悪いから、怒りの矛先がない。
 お母さんは私に頼みごとをした後、仕事とやらで外出してしまった。ゆえに電話も繋がらず、お父さんも一緒。だからこうしてダッシュで帰っているのだ。もう、なんでよなんでこうなるのよ!?

「帰宅部舐めるなぁ!!」

 と、意味不明な叫び声をあげながら帰路を急ぐ。
 指先に提げたスーパーのレジ袋がガサガサと大きく揺れる。
 頼まれた食材は全部が多少乱暴に扱っても大丈夫だ。じゃがいもとかだし、これで卵とか頼まれていたら私はたぶんもっと怒り散らしていた。とにかく叫んでいたに違いない。

「さいっあく、髪濡れたぁ!」

 とうとう唯一セーフだった髪まで被害者に。
 と、ここまで来たらもはや失うものがなかった。
 私はやや恥を捨てて、とにかく足に力を込めた。

「――そうだっ、ここ曲がれば!」

 軽自動車が一台ギリギリ通れそうな細路地。
 普段はあまり使わないけれど、ここを通れば家が近くなる。
 私は咄嗟に機転を利かせて、90度身体をぐいっと曲げた。

 これが、彼の秘密を知ることになろうとは。
 まだこの時の私は意識さえしていなかったのである。
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