一匹狼の君は、どうしたら笑うんだろう?

第二話

 細路地を駆け抜けていると、信号機のない交差点にぶつかった。
 急いでいるとはいえ、左右確認だけはしようと思った私。
 不注意で事故に遭っては親を悲しませるから。

「左見てっと……ん?」

 ふと、視線の先に小さめの段ボールが見えた。
 箱状で、まるで何か詰められているみたい――いや。
 私は思わず、息を呑んだ。まるでドラマみたいだった。

 よく見てみれば、一匹の子犬が段ボールの中にいた。
 寒そうに身体を震わせているその姿は弱々しかった。

「え、どうしよ。どうしよ」

 私の口から情けなくも困惑の声だけが飛び出した。うちは一軒家だから連れて帰ることもできるけど、そうすれば親に迷惑をかける。家族として受け入れるだろうか、そもそも飼えるのだろうか。
 まず元の飼い主は何をやっているのか。子犬を捨てるなんて。

 そんな漠然とした考えばかり浮かぶ。
 私はまだ子供だ。簡単に責任を背負うなんて言えない。
 だけれど、だけれど、見捨てるなんてしたくない。

「……お母さんとお父さん、怒るかなぁ」

 私は呟きながら、ぐっと覚悟を固めた。
 怒られたら他に引き取ってくれる心優しい人を探そう。
 ……これが、いまの私にできる精一杯だ。

 そうして、私が子犬へと近づこうとすると、

「え?」

 一人の男性が私よりも早く、子犬に駆け寄った。
 身長はそこそこ高く、すらりとした体型をしている。どんよりとした雨雲に覆われている空。辺りは薄暗いというのに、彼の髪色は変わらず明るかった。茶髪。視界に映り込んだ横顔は、須藤雄介、その人だった。

 私の脳内が混乱で埋め尽くされる。
 
「え、いやいや、え。あの人って……え?」

 顔は知っている。去年から有名だったから。
 噂も知っている。悪い話ばかり飛び交っていたから。
 だからこそ、信じられそうになかった。

 雨粒の中、うっすらと聞こえる彼の声音が信じられなかった。
 どこまでも優しく、どこまでも穏やかだったから。

「もう大丈夫だぞ。ったく、震えちまって」
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