一匹狼の君は、どうしたら笑うんだろう?

第三話

 横顔だけでも分かるくらい、彼は朗らかに笑っていた。
 聞いていた噂とは別人のように思えた。だけど間違いなく本人。
 優し気な微笑みがギャップだった。少しだけ目を奪われた。

 私と同じように傘を差していた彼は自分が濡れるのも厭わず、抱き上げた子犬側に傘を傾けていた。そして、そのまま来た道を戻って行った。時間にして五分も無かったと思う。その間、私は一歩も動けなかった。
 
 不良だと思っていた、あるいは思っている相手が子犬を拾う?

「え、えぇ……そんな少女漫画みたいな……」

 私は女子高校生。多少の分別はついているつもりだ。
 不良が実は優しいなんて、シナリオ……できすぎだと思う。
 
 ただ、現実として巻き起こったのだから受け入れるしかない。他人でした、とか、私が見た幻覚です、とか言われたほうがよっぽど信じられる。衝撃的すぎて、言葉を失うとはまさにこのことだろう。

「……でもまぁ」

 子犬は彼が拾ってくれたみたいだし、そこだけは一安心。私では親を説得できたか分からないし、何より子犬を育てられるかが問題だった。まぁ、かといって須藤雄介という男子が子犬を大事にするかもまた不明なのだが。

 ただ、どうしてだか心配していない私もいた。
 女の勘、なのだろうか。彼なら大丈夫な気がした。
 もしも、もしも、だ。子犬が酷い目に遭っていたら。

「そんときは私、頑張れっ」

 彼が踵を返した方向を眺めながら、私はそう言葉にした。
 と同時に、くしゃみが飛び出した。途端に襲い掛かってくる寒気。
 全身が痛覚を始めとした感覚を取り戻したかのようだ。

「くしゅん! さむ! え、さむ! ムリムリムリッ!」

 そこで思い出した。私が買い出しの帰り道ということを。
 現在土砂降り。私の身体が全身ずぶぬれ。即ち、このままでは風邪まっしぐら。
 明日は登校日だ。初日から欠席など目も当てられない。

 女子にとってグループ分けは死活問題。
 それを乗り越えねば安息はない。
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