一匹狼の君は、どうしたら笑うんだろう?
第六話
桜の花弁はその彩りを儚げに散らせ、緑を芽生えさせ始めた。
五月に入ると、放課後は定期考査の話題でやや喧騒に満ちている。
対策を施す者。諦めている者。顔色はそれぞれだ。
私はといえば、無難な順位を常に取り続けるタイプ。
具体的に言うなら中の上から上の下、くらい。
「ねえねえ環~、今日一緒にマック行こ~っ」
「ごめん、今日は勉強する。というかそっちも赤点取らないようにね」
「ぐぬぬ、わかってますとも! 任せさないっ!」
私は友人から放たれた魅惑の誘いに断りを入れ、家路につく。
夏に近づくにつれ、日が長くなった。だけど梅雨を思うと憂鬱だ。
髪が湿気でボサボサになるし、何よりジメっとした空気が苦手。
「――え」
帰り道。河川敷沿いを歩いていた時だった。不意に視界が揺れた。
徐々に近づいてくる地面、困惑と同時に「何かに追突」されたのだと気付いた。
意味がわからない。え、なに。なにこれ。どういうこと!?
ざらざらとしたコンクリートが顔に迫って来る。
思わず、私は目を瞑った。衝撃に備えて。
(……あ、あれ?)
だが、待てども待てども、その時が来ない。
顔に傷がつくことも、そもそも倒れていないみたい。
私が恐る恐る目を開けると、地面が遠い。
「おい! 大丈夫かっ!」
耳に届く、その声は聞き覚えがあった。
(あ、あ、え? は、はいっ!?)
けど、まさかそんな偶然。私はパニックになりそうだった。
だけど現実は否応なしに私を追い詰める。つまり、簡潔にまとめるなら。
私は、ある人に倒れる寸前後ろから抱きかかえられたらしい。
「あんた、聞いてんのかよっ!」
「は、はい! 聞いてます聞いてます!!」
私はギギギと壊れた人形のように首を動かす。
視界に飛び込んできたのは陽光に反射する茶髪。
ピアスは銀色で、お洒落と不気味の中間みたいなデザイン。
ぶっきらぼうながら声色は真剣な雰囲気を帯びていた。
足元から聞こえるやや高めの犬の鳴き声もセット。
「んなら、よかった。怪我してねぇよな」
「……た、ぶん? 大丈夫、かと」
気付く。私たちめっちゃ至近距離じゃん。
睫毛長いとか、それが分かっちゃうくらいの距離感。
意識すると、心拍数が跳ねあがりそうだった。
驚きと、恐怖と、僅かな好奇心。
(……って、まずは離してもらわないと!?)
唐突に訪れた、須藤雄介と子犬との出会いだった。
―――――
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
練習として、5000文字ほどの作品を投稿させていただきました。
不良っぽい少年との出会いを描いてみましたが、如何でしたでしょうか。
皆様をちょっとでも楽しませることができたら幸いに存じますm(__)m
五月に入ると、放課後は定期考査の話題でやや喧騒に満ちている。
対策を施す者。諦めている者。顔色はそれぞれだ。
私はといえば、無難な順位を常に取り続けるタイプ。
具体的に言うなら中の上から上の下、くらい。
「ねえねえ環~、今日一緒にマック行こ~っ」
「ごめん、今日は勉強する。というかそっちも赤点取らないようにね」
「ぐぬぬ、わかってますとも! 任せさないっ!」
私は友人から放たれた魅惑の誘いに断りを入れ、家路につく。
夏に近づくにつれ、日が長くなった。だけど梅雨を思うと憂鬱だ。
髪が湿気でボサボサになるし、何よりジメっとした空気が苦手。
「――え」
帰り道。河川敷沿いを歩いていた時だった。不意に視界が揺れた。
徐々に近づいてくる地面、困惑と同時に「何かに追突」されたのだと気付いた。
意味がわからない。え、なに。なにこれ。どういうこと!?
ざらざらとしたコンクリートが顔に迫って来る。
思わず、私は目を瞑った。衝撃に備えて。
(……あ、あれ?)
だが、待てども待てども、その時が来ない。
顔に傷がつくことも、そもそも倒れていないみたい。
私が恐る恐る目を開けると、地面が遠い。
「おい! 大丈夫かっ!」
耳に届く、その声は聞き覚えがあった。
(あ、あ、え? は、はいっ!?)
けど、まさかそんな偶然。私はパニックになりそうだった。
だけど現実は否応なしに私を追い詰める。つまり、簡潔にまとめるなら。
私は、ある人に倒れる寸前後ろから抱きかかえられたらしい。
「あんた、聞いてんのかよっ!」
「は、はい! 聞いてます聞いてます!!」
私はギギギと壊れた人形のように首を動かす。
視界に飛び込んできたのは陽光に反射する茶髪。
ピアスは銀色で、お洒落と不気味の中間みたいなデザイン。
ぶっきらぼうながら声色は真剣な雰囲気を帯びていた。
足元から聞こえるやや高めの犬の鳴き声もセット。
「んなら、よかった。怪我してねぇよな」
「……た、ぶん? 大丈夫、かと」
気付く。私たちめっちゃ至近距離じゃん。
睫毛長いとか、それが分かっちゃうくらいの距離感。
意識すると、心拍数が跳ねあがりそうだった。
驚きと、恐怖と、僅かな好奇心。
(……って、まずは離してもらわないと!?)
唐突に訪れた、須藤雄介と子犬との出会いだった。
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ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
練習として、5000文字ほどの作品を投稿させていただきました。
不良っぽい少年との出会いを描いてみましたが、如何でしたでしょうか。
皆様をちょっとでも楽しませることができたら幸いに存じますm(__)m