先輩!
「怖いから、やっぱりあのマンションにはもう戻りたくないです。新しい部屋が決まるまでここにいさせてもらってもいいですか?」

先輩がじっとわたしの目を見つめて。「ずっとここに居たらいいよ」と一言。

「ありがとう。ごめんね迷惑かけて」と返したわたしに、「ん、伝わってないなあ」とつぶやいた。


先輩は朝の準備がめちゃくちゃ早かった。

起きてから食事の時間を含めても30分で家を出れる。

「おい出るぞ」

「待ってください」


玄関から呼ばれ、マフラーとかばんを手に、慌てて後を追いかける。

先輩はいつもわたしが出社する前に出社している。でももうわたしが出社する時間が迫っていて。

何も言わず時間を合わせてくれたことに気づいて、昨夜から張り詰めていた糸がふわりと切れた。
< 199 / 371 >

この作品をシェア

pagetop