先輩!

1.プロローグ

ポケットからタバコを取り出し唇で咥え火をつけた。

じじじ、僅かな音を立て先端が朱に変わる。


大きく吸い込んで、夜の黒に白い煙を吐き出した。

煙が消えていった空を見上げる。


星が綺麗な夜だった。


「(うまいわけじゃないんだよな)」

大してうまくもないそれをわざわざ体内に取り入れるようになったきっかけは、人と話したくない時、これをくゆらせていると、言葉を発しないことを誤魔化せるからだ。

最近では、何となく手持ち無沙汰を感じると、タバコに手がのびる。


今日の合コンで1番綺麗だった女性(ひと)相手に、2人で抜けようと誘い出し、ホテルの前で「気分じゃなくなった」とタクシー代を渡して1人街を歩く。


ゲームみたいな駆け引きをして、落として、抱いて。

SEXも面倒だけど、誘った手前断ると恥かかせちゃ悪いと据え膳をいただく。


ただ今日はそれすら億劫だった。


一時的に得られる快感なんていつも大差ない。

< 264 / 371 >

この作品をシェア

pagetop