先輩!
「午後から実際の取引先に訪問するけど、今日はひとまず名刺渡して挨拶するだけな」

「はい」

「俺と野口さんが話してること聞いてればいいから。新人です勉強中ですって俺らも先方に言うし。メモもすればいいからひらがなで」

「漢字、書けたら書きます・・・がんばって」

「冗談だよ。個人情報はメモすんなよ」

「はい」

「名刺交換は研修で習ったよな?」

「はい。でも心配で昨日家で何度も練習しました」

「家で?」

「はい。先輩、まだちょっと心配なので練習させてください」

「真面目かよ」


あー、この子彼氏いるっぽいな。家で一人で名刺交換できないよな。

そりゃこんだけ可愛いんだ。彼氏の一人や二人、いて当然か。


若干気分が下がったが、名刺交換の練習に付き合った。

そう、若干。


そしてこの日の退社時に、佐々木本人の口から恋人がいるのか居ないのかを、聞くこととなった。

< 274 / 371 >

この作品をシェア

pagetop