先輩!
「遊びでは手を出すなって言ったけど、本気なら応援するぞ」

「なんですか急に真面目な顔して」

「茶化すなよ」


野口さんが真顔で言うから、俺だけへらへら笑えなくなった。適当に返事しにくくなってしまった。そんな顔されたら。


「好きなのか?」

「いやいや、俺好きとかよくわかんないし、そんなんじゃないですよ。あれですよ。妹を可愛がるようなもんです」

「そうか」と呟いた野口さんが、「彼氏いるしな」と続けた。


『彼氏』その単語だけで、暗い闇が心に渦巻く。

なんだこれ。なんだこの感情。


あれから一度だけ、佐々木と彼氏の話をした。

歳は同い年で、付き合いは長いらしい。


聞きたくなくて期間を聞かなかったことを、今になって後悔している。

俺の『長い』と、世間一般のそれの基準はきっとかけ離れているだろうから。


別れないかなって願ってしまったことは、誰にも言えない。


「本気ならいいんだぞ」

「(遊びじゃねえよ)」

再度、大真面目に言い放った野口さんに、喉から出かけた言葉を飲み込んだ。

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