先輩!
うちのような業者との取引は多いはずだから、粗相をして取引を変えられないようにしなきゃ。

いいご提案をして、ご満足いただかないといけない。ふたぎんさんにも、ふたぎんさんを利用するお客様にも。


銀行には普段ほとんど出向くことがないので、ネットでイメトレしていこう。少しでいいから時間作っていろんな銀行回ろうかな。


「おい、行くぞ」

声をかけられ我に返る。先輩がいつの間にか立ち上がり、部屋の電気を消そうとしていた。


「すみません」

「どうせ銀行何軒か行ってみようって考えてたんだろ。朝一ちょっと時間あるから、支店統合で改装した銀行近くにあったろ。そこまず行って、近場何店舗か行くぞ」

「さすが先輩」

電気を消し、ドアノブに手をかけたまま先輩が微笑む。少し薄暗い室内。先輩の隣に立つ私は「あ、」と声にならない声を飲み込む。


金曜日のデジャブ。


先輩の顔が近づいてきたかと思うと、途中で軌道修正をして、耳をわずかな熱が撫でる。


「好きだよ」


先輩の、息が触れた。
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