先輩!



夕暮れの日本の古都をタクシーの中からぼんやり眺めながら。

観光客慣れしたよく話す高齢の運転手が、駅に向かいながら、あれがなにで、と聞いてもないのに教えてくれて、興味もあったので素直に聞いていた。


今度は仕事じゃなくて芽衣と旅行で来たい。


「綺麗ですね。夜もいいっすね」

「でしょう。紅葉も最高ですよ。お客さん今日は仕事でしょう?次はぜひ恋人か奥さんと観光で来てくださいよ」

「そうですね」

「新幹線乗り場に近いところで止まりましょうか」

「はいお願いします」


赤信号で停車したとき、やっと会話が途切れた。もう駅も近い。


『そうだ。芽衣に連絡しよう』

ポケットからプライベートのスマホを取り出した瞬間、手からスマホが滑り落ちた。

あの日芽衣がくれた大事なスマホケースだ。

運悪く助手席の下に入り込んでしまい、すげえ汚れそうで慌てて拾おうと手を伸ばした。


でも全く取れる気配がなくて、スーツが汚れるのを覚悟して、後部座席と助手席の間の空間にしゃがみこんで左手を伸ばした。



その時だった。



何かが頭上で爆発したような大きな音。鼓膜がビリビリと震える。凄まじい衝撃と体が押し潰されそうな圧迫、全身の激しい痛み。


何が起こったのかわからなかった。
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