先輩!
ちらり、隣を歩く佐々木くんの横顔を盗み見る。

はあ、塩顔尊っ。


金曜日の、目の前で芽衣ちゃんを怒鳴りつけた男らしい一面を思い出し、本日2度目の動悸がする。

むむ、なんだこれ。


ぽんぽんと会話を交わし、月曜の朝とは思えないほどの楽しい時間にモチベが上がる。


仕事の話から、やがてプライベートな話に移った。話題が次から次へ発展するから、気まずい間がない。


「わたしオタクなのよね」

「マジすか。そうっすね、俺も強いて言えば機械ヲタっすかね。パソコン分解して組み立てるを一日中していられますよ」

「えー凄い。わたし機械に疎いから尊敬する」

「小さい部品に興奮しますよ。河合さんは何ヲタなんすか?」

「今はアニメ、アイドル。あと芽衣ちゃん」

「芽衣?じゃあ俺も!俺は久保課長ヲタっす。ガチ勢っす」


話口調は軽いけど、会話の波長が合う。男性とのこんな楽しい会話はいつぶりだろう。


「河合さん独身っすよね。恋人は?」

はい来た3度目の動悸。

もう、気の所為なんてごまかせないから困る。


「配偶者も恋人もいません」

「マジすかラッキー。今度2人で飯行きません?」

「いいね。行こ行こ」

「いつ空いてます?」

コートのポケットからスマホを取り出しカレンダーアプリを開いた佐々木くんに、胸がときめいて仕方ない。

社交辞令じゃないんだ。

わたしとご飯行けてラッキーって思ってくれるんだ。


自分もスマホを取り出し、はやる気持ちで予定を確認する。
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