先輩!
ドアに手をかけようとしていた先輩が、びっくりして振り向いた。

先輩を追いかけていき、ドアを背に立つ先輩を見上げる。


覚悟なら、もうとっくにできてる。先輩はいっぱい伝えてくれた。わたしも伝えなきゃ。


「お話があります」

先輩の表情が曇る。

「これ、受け取ってください」

持っていた紙袋を差し出した。

「ありがとう」

差し出した手に先輩の手が触れたかと思うと、先輩の手が勢いよく離れた。


「気を使ってもらって悪いな。もう来年からうちの部署もバレンタイン廃止したらいいから」

「先輩、」

「悪い。じゃ、俺帰るから」

「待ってください」


先輩の腕をとっさにつかんだ。「あの、その、」と口ごもっていると、はあ、と大きなため息を吐きながら「どうした?」と聞かれてしまった。


「先輩。わたしとお付き合いしてください」


先輩の顔が直視出来なかった。
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