花咲くように 微笑んで
 それぞれの想いを抱えたまま、季節はゆっくり夏へと変わっていった。

 夏休みに入ると、菜乃花は小学生の子ども達向けのイベントを開催する。
 宿題や自由研究のヒントになるように、図鑑や実験の本を紹介したり、勉強会を開いたりしていた。

 今日は、星空研究の日。
 菜乃花がカーペットエリアにプリントや資料、図鑑や筆記用具を並べて準備をしていると、ふいに「なのかお姉さん」と声をかけられた。
 顔を上げた菜乃花は驚いて目を見開く。

 「りょうかちゃん!」

 はにかんだ笑顔で立っていたのは、みなと医療センターに入院していたりょうかだった。

 「うわー、久しぶり!元気にしてた?」
 「うん。今ね、一年生になったの」
 「そうかあ、小学校に入学したんだね。おめでとう!それからお手紙をありがとう。大事に取ってあるんだよ」

 りょうかはあの時と同じように、照れたような笑顔をみせる。

 「この図書館、おうちからは遠いんだけど、今日はお父さんが車で送ってくれたの。星空研究にどうしても行きたくて。終わる頃にまた迎えに来るって」
 「そうなのね!遠いのに来てくれて嬉しい。一緒に楽しもうね」
 「うん!」

 開始時間にはまだ少し早く、りょうかは菜乃花の準備を手伝ってくれる。

 「なのかお姉さん。病院のおなはし会には行ってるの?」
 「それがね、少しお休みしてるの。でもそろそろまた行こうと思ってたところなのよ」
 「そうなんだ!まさるくんがね、なのかお姉さんが最近来ないって言ってたよ。お母さん同士が時々電話してるの」
 「そっか。まさるくんにも会いたいな。じゃあ、今度仕事がお休みの日に会いに行こうかな」
 「うん。まさるくん、もうすぐ退院なんだよ」

 え!と菜乃花は手を止めてりょうかを振り返る。

 「そうなの?」
 「うん。来週の木曜って言ってた」
 「木曜…。仕事だけど、なんとか会いに行ってみる」
 「うん!まさるくん、きっと喜ぶよ」
 「そうだといいな。教えてくれてありがとうね、りょうかちゃん」

 りょうかはにっこりと可愛らしい笑顔で頷いた。
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