花咲くように 微笑んで
 「危ない!」

 誰かの声が聞こえたと思った次の瞬間、菜乃花の身体はふわりと宙に浮いた。

 (…え?)

 何が起こったのかと瞬きを繰り返していると、すぐ目の前に颯真の顔が現れた。

 「なんてことをするんだ。また頭を打ったらどうする?!」
 「え、ど、どうして…」
 「君は一度大ケガをしてるんだよ?もっと自分の身体を大切にしないとダメだ」
 「あ、あの…私?」

 菜乃花は必死で考えを巡らせ、どうやら椅子から落ちそうになったところを颯真に抱き留められたらしいと分かる。

 その途端、菜乃花は一気に顔を赤くした。

 「もしかしてどこか具合が悪い?だから椅子から落ちそうになったの?」
 「いえ、単に眩しくて目がくらんで…」
 「でも顔が真っ赤だよ。目も潤んでるし。熱があるんじゃない?」
 「これは、その…。宮瀬さんの顔が目の前に迫っていて、それで」
 「…は?」
 「ですから、恥ずかしくて顔が…」
 「そうなの?」
 「そ、そんなふうに聞き返されるとますます恥ずかしいです」
 「ああ、ごめん」

 颯真は菜乃花をそっと床に下ろすと、椅子に座らせてから跪く。
 そして菜乃花の額に手を当てた。

 「本当に熱はない?やっぱり少し熱いけど」
 「大丈夫です!あの、少し離れてください。そうすれば落ち着きますから」
 「本当に?」

 どういう現象かと思いながら、颯真は立ち上がって後ずさった。

 菜乃花は手を胸に当てて深呼吸を繰り返す。
 ようやく気持ちが落ち着いて、顔の火照りも治まってきた。

 「ふう。ああ、びっくりした」
 「びっくりしたのはこっちだよ。一体、何をしようとしていたの?」
 「あ、クリスマスの飾り付けです」

 菜乃花は手にしていたガーランドを颯真に見せる。

 「これを窓に飾りたくて。明日のクリスマス、子ども達がここでパーティーをするらしいので」
 「そうだったんだ。貸して」

 颯真は菜乃花からガーランドを受け取ると、椅子に上がる。

 「どこにつければいい?」
 「あ、カーテンレールに。少したゆませて半円になるように」

 菜乃花の指示を聞きながら、颯真はガーランドをテープで留めていく。

 「これでどう?」
 「バッチリです!ありがとうございます」
 「他には?」
 「えっと、壁にこの星の折り紙とサンタさんとトナカイの絵を貼って、あとは綿を雪みたいに飾るのと…」

 菜乃花が紙袋から次々と取り出し、二人であちこちに飾った。
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