花咲くように 微笑んで
 「君は俺の主治医だね。俺よりも俺のことをよく分かってくれている。そしていつも俺の心を癒やしてくれる。俺はどんなに君に救われたか分からない。ありがとう」

 菜乃花は微笑んで首を振る。

 「私の方こそ。宮瀬さん、いつも私を心配して、そばで守ってくださってありがとうございます。入院中、私はあなたの温もりに触れて、その心強さに安心しました。今日も危ないところを助けてくださって…。本当にありがとうございます」

 颯真も菜乃花に微笑みかける。
 そしてふと真剣な表情で口を開いた。

 「君がそばにいてくれたら、俺は毎日楽しく笑って暮らせる気がする。君がいてくれるだけで心が癒やされてホッとする。君が微笑んでくれたら、それだけで幸せな気持ちになるんだ」

 菜乃花ははにかんだ笑みでうつむく。

 「私もです。宮瀬さんとなら、何でもない会話も楽しくて。大きな手で守ってくれると心の底から安心して。何も飾らずに、そのままの私でいてもいいんだなって思えます」
 「そのままの君が一番いい。顔に似合わず肝が据わっていて、子ども達には優しくて。人の痛みに気づいて、寄り添って、心を癒やしてくれる。そんな君が、俺は誰よりも好きだ」

 颯真は、自然に口をついて出た自分の言葉に、驚きつつも納得していた。

 (そうだ。俺はいつの間にかこんなにも彼女のことを大切に想っていたんだ)

 「ずっとそばにいて欲しい。いつも明るく笑っていて欲しい。俺が必ず君の笑顔を守っていく。だから、俺に君を守らせてくれないか?君のそばで、この先もずっと」

 その言葉に、菜乃花はまるで花開くように微笑んだ。

 「はい。私もずっとあなたのそばで、あなたの笑顔を守りたいです。優しくて温かいあなたを、誰よりも近くで支えていきたいです」

 颯真は喜びに胸が震えるのを感じながら、菜乃花を腕に抱きしめた。

 「ありがとう。大好きだよ、…菜乃花」
 「私も。あなたのことが大好きです」

 互いの耳元で囁くと、少し身体を離して見つめ合う。
 と、二人は同時に照れてうつむいた。

 「菜乃花」
 「はい」

 優しい声で名前を呼ばれ、菜乃花は顔を上げる。

 なんて愛おしそうに見つめてくれるのだろう。

 颯真の真っ直ぐな視線に射抜かれて、菜乃花は目を逸らせない。

 やがて颯真の大きな右手が菜乃花の左頬を包み込む。
 その手に甘えるようにそっと顔を寄せると、颯真はふっと微笑んで、親指を菜乃花の頬に滑らせた。

 そしてゆっくり目を閉じると、優しく菜乃花にキスをする。

 ふわっと風が吹いたような、花を揺らすような優しいキス。

 だが唇を離すと、菜乃花に潤んだ瞳で見上げられ、颯真は堰を切ったように今度は熱く口づけた。

 込み上げる想いをぶつけるように、何度もキスを繰り返す。

 菜乃花の柔らかく温かい身体を、強く胸に抱きしめながら。

 いつの間にこんなにも想いを募らせ、そして求め合っていたのだろう。
 もう二度と離れることなんて出来ない。

 そう思いながら二人はいつまでも抱きしめ合い、互いの温もりに幸せを感じていた。
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