花咲くように 微笑んで
 「おはよう、菜乃花」

 翌朝、ぼんやりと目を開けた菜乃花は、ぱちぱちと瞬きしてからハッと大きく目を見開く。

 「お、おはよう、ございます…」

 消え入りそうな声でそう言うと、そっと胸元に視線を動かした。

 (ちゃんと服は着たままよね?)

 シングルベッドに並んで横になり、菜乃花は颯真の大きな腕に包まれていた。

 その温もりに安心して、胸いっぱいに幸せを感じながら眠りについたのは覚えている。

 だが、そのあとは…?

 「大丈夫、まだ手は出してないよ」
 「はっ?手?!」

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 「だって菜乃花が『そんなことしたらお嫁に行けないー』って泣くからな」
 「え?な、何のお話?」

 それには答えず、んー…と伸びをしてから半身を起こすと、颯真は色気たっぷりに菜乃花に囁いた。

 「でもそんなに待てそうにない。菜乃花、早くお嫁においで」

 菜乃花は顔から火が出そうな程、真っ赤になる。

 「あはは!可愛いな。さてと、そろそろ起きよう。もう6時だよ」

 颯真はベッドから降りると、ジャケットを羽織りながら菜乃花に尋ねた。

 「菜乃花、今日の仕事何時上がり?」
 「えっと、早番だから17時です」
 「俺も早番なんだ。19時には出られると思う。迎えに来るから、部屋で待ってて」
 「え、あの…」

 颯真はさっさと身支度を整えると、最後に菜乃花を抱き寄せた。

 「泊まりだから、着替えも用意しておいて」
 「は?!」

 目を丸くする菜乃花にクスッと笑ってから、チュッと軽くキスをする。

 「じゃあね!」

 軽く手を挙げて颯真は玄関を出て行った。

 呆然とする菜乃花の後ろで、颯真のサイン本が忘れられたように飾られていた。
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