花咲くように 微笑んで
 「おはようございます」
 「おはよー」

 夜勤のスタッフ達に挨拶した颯真に、ふわーとあくびをしながら塚本が返事をする。

 「お疲れ様です。急患はありましたか?」
 「んー、道端で酔いつぶれた若いお兄ちゃんが一人。しばらくここでスヤスヤ眠ったあとお目覚めになって、元気に彼女と帰っていきましたよー」
 「そうでしたか」
 「それで?お前の方はどうだったんだ?その様子じゃ、コテンパにやられるのは免れたんだな」

 は?と颯真は怪訝そうに塚本を振り返る。

 「は?って、おいおい。まさかお前、バックレたんじゃないだろうな?」
 「何をですか?」
 「果たし状だよ!三浦先生の」
 「あーー!!」

 颯真は立ち上がって大声を出す。

 「マジか!今すぐ行ってこい!」
 「はい!」
 「生還を祈る。いざとなったら俺がマウストゥーマウスしてやるから」
 「結構です!」

 振り返って返事をしながら、颯真は小児科病棟へと急いだ。

 「三浦先生!」

 申し送りを終えてナースステーションを出て来た三浦に声をかける。

 「おお、遅かったね、宮瀬先生」
 「申し訳ありません!」
 「いや、良かったよ。夕べあのまま俺を探しに来たら、その時はぶっ飛ばしてやろうと思ってたから」
 「は?あ、あの…」

 困惑する颯真に、三浦はニヤリと笑いかける。

 「見たかったよ、かっこいい王子様のお姫様抱っこ」
 「…はい?」

 そして今度は真顔になる。

 「もう二度と彼女を手放すなよ?」

 しばしの沈黙のあと、颯真は大きく頷いた。

 「はい」

 三浦はふっと笑うと、じゃあね!と背を向ける。
 そして思い出したように振り返った。

 「そうだ。これから俺のことは、三浦サンタ様と呼ぶように」
 「…は?」
 「じゃ、そういうことで」

 そう言うと、今度こそ背を向けて去って行った。
< 127 / 140 >

この作品をシェア

pagetop