花咲くように 微笑んで
 「うーん、これでいいかな?」

 仕事から帰ってきて着替えると、菜乃花は鏡の前で角度を変えながら全身をチェックする。

 ボルドーのワンピースにオフホワイトのボレロを羽織り、髪型はハーフアップで毛先をゆるく巻いた。

 張り切り過ぎるのも恥ずかしいが、やはり少しでも可愛く見せたい。

 これが好きな人への気持ちなのか、と妙に納得しながら身支度を整えた。

 「あとは…。え、本当に泊まるのかな?」

 言われた通りに着替えも用意するが、いかにも、といったお泊りバッグに詰めるのは、なんだか期待しているようで気恥ずかしい。
 出来るだけコンパクトにまとめて、大きめのトートバッグに詰めた。

 「これでよし、と。あー、緊張してきちゃった」
 
 ソワソワと落ち着きなく部屋の中を歩き回っていると、スマートフォンが鳴る。

 「もしもし、菜乃花?エントランスに着いたよ」
 「はい!今下ります」

 電話から聞こえてくる颯真の声に、既に顔を赤くしながら、菜乃花はコートを着ると急いで部屋を出た。

 「こんばんは」
 「こんばんは。菜乃花」

 優しく微笑んでくれる颯真は、いつもより改まったジャケット姿で、菜乃花はそのかっこ良さにしばし見とれる。

 「じゃあ、行こうか」
 「はい」

 開けてくれた車のドアから助手席に乗り込む。

 「あの、どこに行くの?」
 「ん?内緒。20分くらいで着くよ」

 楽しげに言って颯真は車を走らせる。
 
 着いた先は、海に面したラグジュアリーホテルだった。

 「ひゃー、こんな素敵な高級ホテル!私、この格好で大丈夫かな」
 「もちろん。凄く可愛いよ」

 車を降りて菜乃花の肩を抱きながら、颯真がにっこり笑う。

 菜乃花はますます頬を赤らめた。
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