花咲くように 微笑んで
 「菜乃花、明日の仕事は何時から?」

 ソファに並んで座り、コーヒーを飲みながら颯真が尋ねる。

 「明日はおやしゅみなんです」
 「そうなんだ!俺も休みなんだ」

 喜びつつも、颯真は菜乃花の様子をうかがう。
 そろそろ呂律が回らなくなってきたらしい。
 目もトロンとしている。

 「宮瀬しゃんも明日はおやしゅみ?」

 どうやら『サ行』が苦手なようだ。

 「宮瀬さんじゃなくて、颯真ね」
 「しょうましゃん」
 「いやだから、颯真」
 「しょうまさん?」
 「惜しい!そっちじゃない」
 「そうましゃん」
 「おっ?!まあ、うん。よしとしよう」

 すると菜乃花は、ふふっと笑う。

 「そうましゃん、面白い!」
 「いや、面白いのは俺じゃない」

 菜乃花は楽しそうに笑い続ける。

 「それと菜乃花。くれぐれも俺以外の男の前で酔っ払うなよ?」
 「どうして?」
 「どうしても!」
 「なんだか眠くなってきちゃった。お風呂入ってくる」
 「ちょっと、聞いてる?菜乃花。あとお風呂はダメ」
 「ええー?どうしてー?!」

 菜乃花は上目遣いに颯真を睨む。

 「そんな目で睨んだってちっとも怖くないよ。可愛いだけだ」

 笑いながらそう言うと、颯真は菜乃花を抱き寄せてキスをした。

 頬を赤く染めた菜乃花が、潤んだ瞳で颯真を見つめる。

 颯真はたまらないというように切なげな表情で、更に深く菜乃花に口づけた。

 ん…と菜乃花が吐息を洩らし、颯真の腕に身体を預ける。

 「菜乃花…」

 込み上げる愛しさで胸をいっぱいにさせながら、颯真は何度も菜乃花に口づけ、強く抱きしめていた。
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