花咲くように 微笑んで
 「わあ、素敵」

 普段アクセサリーを着けない菜乃花は、店内に足を踏み入れると、たくさんの輝くジュエリーに目を奪われる。

 「菜乃花、婚約指輪はこっちだよ」

 颯真に呼ばれて奥の一角に行く。

 「凄い!これ、全部ダイヤモンド?」

 思わず声に出すと、女性スタッフがにこやかに微笑む。

 「はい。どれもカラーは最高級のDランクのダイヤモンド。クラリティやカットも高品質のものばかりでございます。カラットやデザインのお好みはございますか?」
 「え、いえ、何も」

 気後れして菜乃花は何も選べない。

 「菜乃花、これ着けてみて」
 
 颯真が指差すと、スタッフがショーケースの中から取り出した。

 眩しいくらいに輝くひと粒ダイヤモンドは、これぞ婚約指輪、といった王道のデザインだった。

 (ひえー、こんなに存在感あるのね。婚約指輪って)

 菜乃花は未だに実感が湧かない。

 颯真があれこれと選ぶが、言われるがままにはめるのみだった。

 「菜乃花、どれが一番いい?」
 「そ、それが選べなくて。颯真さんから頂けるならそれだけで…」
 「そんなこと言わずに。好きなものない?」
 「どれも素敵で選べません」

 すると颯真は、うーんと考え込む。

 「菜乃花。俺が選んでもいい?」
 「はい、もちろん」
 「じゃあ、ちょっとソファで待ってて」
 「はい」

 言われた通り、菜乃花は壁際のソファに座って待つ。

 スタッフは菜乃花の指のサイズだけ測ると、あとはずっと颯真とやり取りしていた。

 「お待たせ。刻印してもらうから、仕上がりはもう少し先になるって」
 「そうなんですね」
 「楽しみにしてて。さてと!じゃあ、ぶらぶらショッピングでもする?」
 「はい!」

 颯真は微笑んで頷くと、さりげなく菜乃花の手を握って歩き出す。

 菜乃花は胸をドキドキさせながら、うつむいて頬を赤らめた。
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