花咲くように 微笑んで
 「菜乃花、片付け終わった?」

 4月に入ってすぐ、菜乃花は颯真のマンションに引っ越してきた。

 そんなに荷物は多くないが、やはり本だけは大量にあり、自分の部屋の棚に並べるのに時間がかかっていた。

 「はい、やっと終わりました」
 「そう、良かった。リビングでコーヒーでも…」

 そこまで言って颯真は言葉を止める。

 「ちょっ、菜乃花!だからそれはダメだってば!」
 「ん?何がですか?」

 菜乃花が颯真の視線の先を追うと、イーゼルに飾った颯真のサイン本があった。

 「隠してって言ったでしょ?」
 「はい。だからこうやって隠してます」
 「どこがだよ?!」
 「だって、私の部屋にあれば他の人の目には触れないでしょ?」
 「菜乃花の目に触れるのも恥ずかしいの!」
 「ええ?それだとサイン本の意味がないじゃない」
 「いや、そもそもサイン本じゃないから!俺、筆者じゃないし」
 「まあまあ、そうおっしゃらず。ほら、コーヒー淹れましょ!」
 「なーのーかー!」

 まだ抗議する颯真の背中を笑いながら押して、菜乃花は部屋を出た。
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