花咲くように 微笑んで
 「ご馳走様でした。とても美味しかったです」

 出口に案内してくれるスタッフに声をかけると、にこやかに「またどうぞお越しくださいませ」とドアを開けて見送られた。

 菜乃花もにっこり笑ってからドアを出る。
 と、外に出た途端ハッと我に返った。

 「た、大変!無銭飲食しちゃった!」

 慌てて戻ろうとすると、颯真が笑いながら止める。

 「大丈夫だよ」
 「でも、あのスタッフの方きっと忘れてて…」
 「あはは!そんなことないから」
 「え?それじゃあ…」
 「払ってあるから、大丈夫だよ」
 「ええ?!いつの間に?」

 菜乃花の問いには答えず、颯真は車のロックを解除する。

 「うちまで送るよ。あ、自宅の場所を知られたくないかな?」
 「いえ、そんなことは」
 「じゃあ、またナビしてね」

 そう言って助手席のドアを開けて菜乃花を促す。
 菜乃花は取り敢えず乗り込んだ。

 「あの、宮瀬さん。私の分もお支払い済ませてくださったのでしょうか?すみません、すぐに払いますから」

 運転席に颯真が座るやいなや、菜乃花は財布を取り出して言う。

 「いらないよ。せっかくの美味しい料理の余韻が半減する。気持ち良くおごらせてくれ」
 「ですが、そもそも私がポーチの件でご迷惑をおかけしたのに…」
 「本当にいいってば。それよりナビは?まだ始まらない?」
 「あ、えっと。左に出てしばらく真っ直ぐ進んでください」
 「了解」

 10分足らずで菜乃花のマンションに着く。
 菜乃花は、ドアを開けてくれた颯真に向き合い改めて頭を下げた。

 「宮瀬さん。今日は色々とありがとうございました」
 「こちらこそ。ランチにつき合ってくれてありがとう。楽しかったよ」
 「私の方こそ、ご迷惑おかけしたのにご馳走になってしまって。本当にありがとうございました」
 「じゃあ、また」
 「はい。お仕事お気をつけて行ってきてください」
 「ありがとう」

 菜乃花は颯真の車が見えなくなるまで見送った。
< 14 / 140 >

この作品をシェア

pagetop