花咲くように 微笑んで
 翌年の3月末。

 菜乃花は二人で、いつもの菜の花畑に来ていた。
 二人といっても颯真とではない。

 菜乃花は腕に、生後3ヶ月の赤ちゃんを抱いていた。
 クリスマスイブに生まれた娘を連れて、館長や谷川に会いに来ていたのだ。

 挨拶を済ませて図書館を出ると、隣の公園に向かい、ベンチに座って菜の花を眺めながら、綺麗だねーと娘に話しかける。

 颯真との大切な娘は『どんな困難の中でも希望の光を見出せる子に。そしてキラキラと輝く人生を送って欲しい』と願いを込めて、『ひかり』と名付けた。

 「ねえ、ひかり。これからのあなたの人生は、楽しいことばかりではないかもしれない。でもね、忘れないで。どんな時もパパとママはあなたのそばにいて、あなたを支えるから。それにあなたの周りには、こんなにも素敵な世界が広がっている。綺麗な花や自然があなたの心を癒やしてくれる。あなたの住む世界は、こんなにも優しくて温かいのよ」

 菜乃花が語りかけると、ひかりは、あー!と声を出してにっこり笑う。

 「ふふ、可愛い」

 愛娘を見つめてから、菜乃花はもう一度顔を上げて菜の花畑に目をやった。

 春の柔らかい陽射しは、颯真の明るい笑顔に似ている。

 この温かい世界と優しい颯真は、いつも自分とひかりを守ってくれているのだ。

 そう感じて、菜乃花はもう一度ひかりを見つめた。

 ふわりと風に揺れて花開く菜の花のように、優しい微笑みを浮かべながら…
 
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