花咲くように 微笑んで
第三章 二人の仕事
 「それではこれからおはなし会を始めます。みんな、カーペットエリアに集まってくださいね」

 菜乃花が声をかけると、親子連れが次々と集まって来た。
 皆きちんと靴を脱ぎ、カーペットの真ん中にいる菜乃花の近くに座る。

 「みなさん、こんにちは!」
 「こんにちはー!」

 元気良く手を挙げて応えてくれる子や、ママの膝に座ってパチパチと手を叩く小さな子、既に慣れた様子で菜乃花の目の前にちょこんと座る子など、色々な子どもがいる。

 「もうすぐみんなの楽しみにしている日がやってくるね。プレゼントが届く日だよ。何の日かな?」
 「クリスマスー!」
 「そうです、クリスマスです。今日はそんなクリスマスのお話です。それでは、はじまりはじまり…」

 菜乃花は正座した膝の上に絵本を載せて、ゆっくりとめくりながら読み聞かせを始めた。

 ここは市内で一番大きな中央図書館。
 図書館司書として働く菜乃花は、主に子ども向けのコーナーやイベントを任されていた。

 毎週水曜日の午前10時から未就園児向けのおはなし会を開催したり、土日は小学生向けにオススメの本を紹介したりと、子ども達が図書館に通ってくれるよう、色々な企画を考える。

 壁には、可愛いイラスト入りで本のあらすじやポイントを添えた紹介ポスターも貼っていた。

 親子で楽しくたくさんの本に触れて欲しい。
 その想いで菜乃花は日々図書館の魅力を伝えようと、アイデアを練っていた。

 「…プレゼントを手にした子ども達はみんな笑顔。サンタさんが届けたのは、みんなが笑顔になる魔法のプレゼント。それはきっと、君のところにも届くはず。ほら、耳をすませてみて。トナカイの鈴の音が聞こえてきたよ。シャンシャンシャンシャン…。おしまい。どう?今日の絵本は楽しかったかな?」
 「うん!たのしかったー」
 「おうちに帰ってからも、ママとたくさんお話してね。じゃあ次はお待ちかね、シールの時間だよ」

 やったー!と子ども達が手に小さなカードを持って、菜乃花に駆け寄る。

 「ゆっくり歩いて来てね。順番ね」

 菜乃花は子ども達に声をかけながら、たくさんのシールをカーペットに並べた。

 子ども達は思い思いに好きなシールを選んで、手に持っていたカードに一枚貼る。
 そのカードは『おはなし会カード』と書かれた、菜乃花が作って配ったものだった。

 おはなし会に参加する度にシールを一枚貼ってもらう。
 子ども達のちょっとしたお楽しみだった。

 「じゃあみんな、来週も待ってるね」
 「はーい!なのかおねえさん、さようなら」
 「さようなら。気をつけて帰ってね」
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