花咲くように 微笑んで
 「菜乃花ちゃん、よく分かったわねー。かばんの国よ?どうやったらあの本と結びつくのよ」

 谷川に詰め寄られ、ははは、と笑ってやり過ごした時だった。
 後ろでドサッと物音がして、菜乃花は振り返る。

 本棚が左右に並ぶ通路に、今しがた案内したばかりのおじいさんが倒れているのが見えた。

 「加納さん!」

 菜乃花は慌てて駆け寄る。

 「加納さん、加納さん?聞こえますか?」

 床に横たわるおじいさんを仰向けにして、肩を叩きながら耳元で声をかけたが、反応はない。

 「鈴原さん、どうした?!」

 館長が谷川と一緒にバタバタとやって来た。

 「館長、救急車を呼んでください。谷川さんはAEDとハサミを持ってきてもらえますか?」
 「あ、ああ。分かった」
 「今持ってくるわね」

 二人は、またバタバタと立ち去って行く。

 菜乃花は左手の腕時計に目を落としてから、注意深くおじいさんの胸とお腹の動きを見る。

 (…10秒。全く動きはない)

 菜乃花は意を決すると、おじいさんの胸の真ん中にある胸骨の下半分に、組んだ両手の付け根を重ねた。

 両肘を真っ直ぐ伸ばし、真上から垂直に胸を5cm程沈み込ませるように一定の速さで圧迫する。

 (1,2,3,4…)

 無我夢中で胸骨圧迫を繰り返していると、谷川がAEDとハサミを持って戻って来た。

 「菜乃花ちゃん、これ」
 「ありがとうございます。谷川さん、加納さんのシャツをハサミで切って前を開いてください」

 菜乃花は胸骨圧迫の手を休めずに指示を出す。

 谷川は、菜乃花の手の動きを邪魔しないようにハサミを入れ、シャツの前を開いた。
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