花咲くように 微笑んで
 「鈴原さん、救急車こっちに向かってるから」
 「ありがとうございます。館長、代わってもらえますか?」
 「え、あ、ああ」

 戻って来た館長に、菜乃花は有無を言わさず交代してもらう。
 館長も応急手当講習会は受講しており、やり方は分かっているはずだった。

 素早く交代して館長が胸骨圧迫を始めると、菜乃花はAEDのふたを開けた。
 音声案内に従って電極パッドの袋を開封し、おじいさんの素肌の右胸と左わき腹にしっかりと貼る。

 「身体から離れてください」の音声メッセージが流れ、館長も菜乃花もおじいさんから一旦離れた。

 心電図の解析をしたAEDから「ショックが必要です」と音声メッセージが流れ、「ショックボタンを押してください」という指示を聞いた菜乃花はボタンを押した。
 そしてまた胸骨圧迫を再開する。

 「鈴原さん、大丈夫?代わろうか?」
 「では、次の電気ショックの後は館長にお願いします」
 「分かった」

 館長と言葉を交わしていると、再びAEDが心電図の解析に入るメッセージが流れた。
 菜乃花はおじいさんから離れ、案内に従って再びショックボタンを押す。

 「館長、お願いします」
 「ああ」

 館長が胸骨圧迫を始めると、うっ…とかすかにおじいさんがうめいた。
 そして館長の圧迫を嫌がるように身じろぎする。

 「館長」

 菜乃花は声をかけて館長の動きを止める。
 おじいさんの手首に触れながら、胸に耳を押し当てて心臓の音を聞く。

 「脈、戻ってます」
 「そ、そうか!」

 その時、谷川に案内されて救急隊員が担架を持って駆け寄って来た。

 菜乃花の説明を聞くと、救急隊員はすぐさまおじいさんを担架に乗せて運んで行く。

 「館長、私がつき添います」
 「ああ、頼んだ」

 菜乃花は頷くと、カウンターの裏に置いておいたスマートフォンと財布が入った小さなバッグを持って救急隊員のあとを追いかけた。
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