花咲くように 微笑んで
 「この方のかかりつけの病院は?」
 「分かりません」
 「では、こちらで搬送先を探してもよろしいですか?」
 「はい、お願いします」

 救急車に乗り込むと、救急隊員は菜乃花とやり取りしてから電話をかけ始めた。

 「受け入れをお願いします。80代の男性で…」

 だが、病状を詳しく説明し始めると、救急隊員は顔をしかめた。

 「そうですか、分かりました」

 そしてまた別の病院にかけ直す。
 そこでも同じようにすぐにやり取りを終えた。

 (救急車が病院から受け入れを拒否されて立ち往生するって話、本当だったんだ)

 菜乃花は、酸素マスクをつけられてぐったりしているおじいさんを見ながら、思わず両手を組んで祈る。

 (お願い、誰か助けて!)

 すると「あ、よろしいですか?はい!すぐに向かいます!」と救急隊員の覇気のある声がした。

 「受け入れ先が見つかりました。これからみなと医療センターに向かいます」
 「はい、ありがとうございます!」

 菜乃花は思わず涙ぐみながら礼を言う。

 「シートベルトをしっかり締めてください。揺れますので」
 「分かりました」

 救急車は、サイレンを響かせながら走り出した。
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