花咲くように 微笑んで
 「あのっ!」

 エレベーターホールへと足早に向かっていた颯真は、後ろから聞こえてきた声に立ち止まる。

 振り向くと、先程まで右隣の席に座っていた女性が、紙袋を手にタタッと走り寄って来た。

 「こちらをお忘れです」

 そう言ってホテルのロゴが入った引き出物の紙袋を手渡す。

 「ああ、そうか。すまない。ありがとう」
 「いえ。お仕事お忙しそうですね。どうぞお気をつけて」
 「ありがとう」

 女性は柔らかい笑みを見せると、両手を揃えて小さくお辞儀をしたあと、ふわりとオレンジ色のワンピースを翻して軽やかに扉の向こうに消えた。
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