花咲くように 微笑んで
 次の日はオフで、菜乃花は朝からのんびりと部屋でくつろいでいた。

 (そう言えば買い物もまだ行ってないままだったな。今日は21日だし、クリスマスらしい雑貨でも買いに行こう)

 そう思いながらコーヒーを飲んでいると、またしても春樹から電話がかかってきた。

 (ええ?どうしてなのよー。せっかく最近は先輩のことを思い出さなくなってたのに)

 恨み節を言いながら電話に出る。

 「もしもし」
 「あ、菜乃花?いやー、お前なんだか面白いことになってるな」

 は?と菜乃花は素っ頓狂な声で聞き返す。

 「先輩、急に何のお話ですか?」
 「いや、ほら、颯真だよ。またあいつから電話がきたんだ。で、おかしなこと言うからさ」
 「おかしなこと?」
 「そう。ナースの彼女に会いたい。住んでるマンションは知ってるけど、連絡先は知らないから伝えてくれってさ」
 「ナースの彼女?って誰ですか?」
 「お前のことらしいぞ」
 「は?!どうして私がナースなんですか?」
 「知らん。お前も心当たりないのか?いやー、面白いな。菜乃花、24日って仕事?」
 「はい。17時までの早番です」
 「そしたらさ、そのあとうちに来ないか?颯真も呼んでクリスマスパーティーでもしよう」

 ええ?!と菜乃花は困った声色になる。

 「なんだ?もしかして彼氏とデートだったか?」
 「いえ、そういう訳では。でも先輩だって新婚さんなのに、奥様と二人でクリスマスイブを過ごしたいんじゃ…」
 「有希がそうしようって言ってるんだ。俺と二人きりはもう飽きたらしい。あはは!」
 「え、まさか、そんな」
 「冗談だよ。有希もお前達の話が聞きたいらしい。何がどうなってるのか、颯真は詳しく話してくれないから、てんで想像つかなくてさ。あと、新婚旅行の土産も渡したいし」
 「は、はあ」

 楽しそうな春樹の口調に押され気味になる。

 「な?みんなでわいわい楽しもうぜ。菜乃花、仕事終わったらうちに来いよ。あとで住所メッセージで送るから」
 「は、はい。分かりました」
 「じゃあな、楽しみにしてる」
 「はい、よろしくお願いします」

 通話を終えてしばし呆然とする。

 (先輩の新居にお邪魔するなんて。どうしてこんなことに…。お願いだから、忘れさせてよー)

 眉を八の字に下げて困った顔になる。

 (仕方ない。ちょうど買い物に行くつもりだったし、手土産も選びに行こう)

 コーヒーを飲み干すと、菜乃花は少しオシャレして街に出かけた。
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