花咲くように 微笑んで
 「よっ、早かったな。どうぞ」
 「はい、お邪魔いたします…」

 24日、仕事を終えたその足で菜乃花は春樹のマンションを訪れていた。

 「失礼します…」

 小さくなりながら春樹に続いてリビングに足を踏み入れると、ボブカットのスタイルの良い女性がにこやかに挨拶してくれる。

 「こんばんは、有希です。いらしてくださってありがとう。さあ、どうぞ座って」
 「はい、失礼いたします」

 促されてソファの隅にちょこんと腰かける。

 「あら、そんなすみっこに座らなくても。はい、紅茶はミルクでいいかしら?」
 「あ、はい。ありがとうございます。それからこれ、よろしければどうぞ」

 菜乃花は持って来た手土産を有希に手渡す。

 「まあ、ありがとう。あ!この紙袋、ひょっとして『ロージーローズ』の?嬉しい!私、ここのお菓子大好きなの」
 「そうなんですね、良かったです」
 「このお店いつも並んでるから、買うの大変だったんじゃない?」
 「いえ。平日の午前中に行ったので、空いてました」
 「そっか。菜乃花さんって土日休みじゃないのね」

 すると春樹が話に加わる。

 「菜乃花、相変わらず休みの日は一人でゴロゴロしてるのか?」
 「はい、基本的にはそうですね」
 「おいおい、もっと休日を楽しんだらいいのに」
 「春樹、それは人それぞれよ。疲れる相手とつまらないデートするより、一人の時間の方が楽しかったりするもの」

 有希がそう言うと、春樹がギクリとした顔になる。

 「有希、それって暗に俺のこと言ってる?」
 「ん?まさか!そんな人と結婚する訳ないでしょ?昔の話よ」
 「昔?って、つまり元カレってこと?」
 「もう、春樹ったら。何をつまらないヤキモチ焼いてるの。ほら、菜乃花さんが持って来てくれたお菓子、いただきましょ!とっても美味しいんだから。ね?菜乃花さん」
 「あ、は、はい」

 菜乃花は、目の前で繰り広げられる春樹と有希の会話に顔が火照ってくる。

 (なんだかとってもラブラブな雰囲気だな。私、お邪魔なだけなんじゃ…)

 居心地が悪くなってきた時、春樹のスマートフォンが鳴った。

 「お、颯真が着いたみたいだ。来客用の駐車場、案内してくるよ」

 春樹がスマートフォンを片手に立ち上がり、部屋を出て行くと、菜乃花は有希と二人きりになる。
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