花咲くように 微笑んで
 「ねえ、菜乃花さんって春樹の大学時代の後輩なんですってね」
 「あ、はい。私が3年生でゼミに入った時、先輩は院の2年生でした」
 「そうなのね。菜乃花さん、私よりも先に春樹と知り合ってたんだ。ね、どんな感じだった?学生の春樹って」
 「え、ええ?そうですね、あの。頼れる先輩でした」

 なんと答えていいか分からず、しどろもどろになる。

 「えっと、有希さんは先輩と職場でお知り合いになったんですよね?」

 結婚披露宴で紹介されていた二人のエピソードを思い出す。
 春樹は公認心理師と臨床心理士の資格を持ち、病院で働いている。
 そこでナースをしていた、同い年の有希と知り合ったという話だった。

 「うん、そう。まあいわゆる職場結婚ってやつよね。だから大学時代の青春って感じに憧れちゃうの。私は看護学校でひたすら勉強してたけど、大学生って楽しそうだなって」
 「あ、私も勉強ばかりで、たいした青春の思い出はないです」
 「そうなの?でも春樹はあなたのことよく話すわよ。教授と緑茶飲みながら、延々と箱庭やってる女の子だったって」

 ブッと思わず菜乃花は紅茶を吹きそうになる。

 「そ、そんな。縁側で日向ぼっこするおばあさんみたいに…」
 「そうなのよー。私もそんなイメージ持っててね。だから披露宴であなたを見て驚いちゃった。こんなに可愛らしい女の子だったのね!って」

 いえいえ、そんな、と菜乃花は慌てて手で否定する。

 「春樹はあんなこと言ってたけど、私は今のままのピュアな感じの菜乃花さんでいて欲しいな。焦って変な男とつき合ったりしないでね」
 「そんな。私、おつき合いしたい人もいませんし」
 「でもきっと、今に素敵な人が現れるわよ。菜乃花さんを大事にしてくれる人がね」
 「あはは、どうでしょう」
 「絶対いるって!」
 「だといいですけど」

 そんなことを話していると、玄関の開く音がして春樹と颯真がリビングに入って来た。
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