花咲くように 微笑んで
 「お久しぶりです、颯真先生」
 「こんばんは。お邪魔します」

 有希に挨拶した後、颯真は菜乃花に目を向ける。

 「こんばんは」
 「こんばんは」
 「会えて良かった。君に返したい物があって」

 そう言って菜乃花に紙袋を差し出す。

 「何でしょうか?」

 怪訝な面持ちで受け取り、中を覗き込む。

 「え?これ、あの時の?」

 入っていたのはAEDだった。

 「ああ。電極パッドも交換していつでも使えるようにしてあるから」
 「そうなんですね!助かります。ありがとうございました」
 「いや、礼を言うのはこちらの方だよ。本当にありがとう。君のおかげで加納さんは一命を取り留めた」
 「あの、加納さんの容体は?」
 「快方に向かってるよ。来月にはまた元の生活に戻れると思う」
 「良かった!ありがとうございます」

 菜乃花がホッとしたように笑顔で頭を下げると、春樹が二人を交互に見比べながら口を開く。

 「なあ、お二人さん。一体、何がどうなってるんだ?」

 ソファに4人で腰を下ろすと、菜乃花はあの日の出来事を詳しく話し出す。

 「私が働いている図書館で、顔馴染みのおじいさんが突然倒れたんです」
 「え?君、図書館で働いてるの?」

 いきなり話の腰を折る颯真に、春樹は眉根を寄せる。

 「颯真、お前の話はあと。菜乃花、それで?」
 「あ、はい。すぐに駆け寄って声をかけたんですが、呼吸も心臓の動きもなくて。救急車とAEDを頼んで心臓マッサージを始めました。AEDの2回目のショックで心臓が動き始めて、そのまま救急車で搬送されたんです。私がつき添って、みなと医療センターに運ばれました。到着して救急車を降りたら…」
 「そこに颯真がいたと」
 「ええ。びっくりしました」
 
 すると颯真がいよいよ身を乗り出してきた。

 「いや、びっくりしたのはこっちだよ。君、ナースじゃないの?」
 「はい、中央図書館に勤める司書です」
 「司書?!でもあのメモは…」
 「颯真、落ち着けよ。ドクターのお前が一番落ち着きないぞ」

 春樹の言葉に、有希もクスッと笑う。

 「ほんと。颯真先生、菜乃花ちゃんよりも年上なんだし。ねえ?菜乃花ちゃん」
 「え、いや、あの」

 返す言葉に困っていると、颯真が口を開いた。

 「あの時、救急車を降りた彼女が俺にメモを渡したんだ」

 そう言ってメモに書かれていた内容を二人に伝える。

 「うわー、完璧。そこらの新人ナースよりもしっかりしてるわ」

 有希が感心したように言うと、確かに、と春樹も頷く。

 「だろ?患者の処置に当たってたドクター達はみんな、メモを書いたのはナースだと思い込んでたぞ。俺の指導医ですらな」
 「なるほど。それでお前の中で菜乃花は『住まいは知ってるけど連絡先は知らないナースの彼女』って認識になった訳だ」
 「あはは!なんだかおかしなことになってるのね」

 有希が面白そうに笑い出す。
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