花咲くように 微笑んで
 「…ただいま」

 誰もいないワンルームマンションに帰ってくると、菜乃花(なのか)は小さくため息をついてハイヒールを脱ぐ。

 引き出物の紙袋と小さなパーティーバッグを床に置くと、コートも脱がずにベッドにボフッと仰向けに身を投げた。

 「素敵だったな、結婚式」

 天井を見上げ、誰にともなくポツリと呟く。

 新郎新婦の幸せそうな姿を見て自分まで嬉しくなったし、どうぞお幸せにと心から願った。
 だがこうして一人になると、何とも言えない切なさが込み上げてくる。

 菜乃花は、目に焼き付いた春樹のタキシード姿を思い出す。
 かっこよくて眩しいくらいに輝いていて、相変わらず笑顔が素敵で…。

 そして隣に並ぶ綺麗な新婦とは、絵になる程お似合いだった。

 (もう平気だと思ってたのにな。吹っ切れると思ってたのに)

 今日は自分にとっては卒業式。
 そう思っていた。
 だが実際には、そう簡単に気持ちは切り替わってくれなかった。

 (でも本当に今日でおしまい。明日からは、ちゃんと気持ちを切り替えよう!)

 菜乃花は自分に言い聞かせるように大きく頷いた。
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